SOKEI労務通信2026年9月号

      2026/09/02

Vol. 4 September 2026

人事労務 NEWSLETTER SOKEI労務通信

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社会保険労務士法人総合経営サービス肥後労務管理事務所から、毎月の人事労務トピックスをお届けします。

今月号は「36協定の監督指導見直し」「賃金不払い、年間2万2,605件・128億円超」などを中心にお届けします。

今月のトピックス

直近2か月の人事労務に関わる主な動きをお届けします。

01
9/1開始

36協定の監督指導見直し

厚生労働省は9月1日から、時間外・休日労働時間数だけに着目して「1か月45時間以内」への削減を求める一律の監督指導を見直します。各事業場が36協定で定めた健康・福祉確保措置の実施状況を重点的に確認する方式へ転換します。ただし、労働基準法上の原則である月45時間・年360時間の上限規制そのものが撤廃されるわけではありません。本号Feature 1で、制度と運用の違い、規制緩和との見方まで整理します。

02
最新統計

賃金不払い、年間2万2,605件・128億円超

厚生労働省は8月21日、2025年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の監督指導結果を公表しました。賃金は労働契約のもっとも基本的な約束ですが、なお多数の不払いが発生しています。本号Feature 2では、賃金支払いの基本原則から未払い残業、監督署の是正まで整理します。

03
9月

9月は職場の健康診断実施強化月間

厚生労働省は毎年9月を「職場の健康診断実施強化月間」とし、一般健康診断だけでなく、医師からの意見聴取、事後措置、保健指導、ストレスチェック、健康保持増進措置、治療と仕事の両立支援まで重点的な実施を求めています。8月21日には、労働者の健康保持増進の在り方に関する検討会報告書も公表されました。本号Feature 3で、健康診断がどこまで会社の仕事なのかを考えます。

04
調査

マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2026

リクルートマネジメントソリューションズが8月31日に公表した「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2026」では、管理職に課題感を持つ人事担当者は71.0%、管理職本人は78.0%でした。管理職候補の育成・選抜では「管理職になりたい社員が減っている」ことが最大の課題。プレイングマネジャー化や育成負担、生成AI活用も含め、本号Feature 4で考えます。

05
10月予定

社会保険の適用拡大

2025年の年金制度改正により、短時間労働者の社会保険加入要件にある月額8.8万円以上の賃金要件は撤廃することが定められ、厚生労働省は最低賃金の動向を踏まえ2026年10月の撤廃を予定しています。企業規模要件も2027年以降段階的に縮小され、2035年10月に撤廃予定です。最終的には、企業規模にかかわらず「週20時間以上」がより重要な基準になります。本号Feature 5で、現在の加入ルールから雇用保険との違いまで整理します。

06
10/1施行

同一労働同一賃金、10月1日の改正前に最終確認を

10月1日から改正同一労働同一賃金ガイドライン等が施行・適用されます。雇入れ時等の明示事項に「待遇差の内容・理由について説明を求めることができる旨」が加わるほか、ガイドラインの明確化などが行われます。派遣労働者についても同日改正です。8月号で詳しく取り上げましたので、今月は施行前の最終チェックとしてご確認ください。

07
10/1義務化

カスハラ・求職者セクハラ対策、いよいよ10月1日から義務化

10月1日から、カスタマーハラスメント対策と、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります。カスハラについては6月号・8月号でも取り上げました。就業規則や方針、相談窓口、発生時の対応フローなど、未整備の項目がないか最後の確認を。

— Feature One —

36協定の監督指導見直し「月45時間」はなくなるのか?

9月1日から変わるのは法律上の上限そのものではなく、労働基準監督署の指導のあり方です。政府の狙いと『実質的な規制緩和では』という見方の両方から整理します。

9月1日から、何が変わるのか

厚生労働省は2026年8月19日、時間外労働等に関する相談・支援と労働基準監督署の監督指導を、9月1日から見直すと発表しました。

これまでの監督指導では、時間外・休日労働時間数に着目し、1か月45時間以内への削減を求める指導が行われることがありました。今回、このような一律の指導を見直し、各事業場が36協定で定めた「健康及び福祉を確保するための措置」が実際に行われているかを重点的に確認し、その状況に応じて必要な指導を行う方式へ変わります。

同時に、働き方改革推進支援センターには36協定・特別条項や柔軟な労働時間制度に関する専門相談窓口を設け、労基署と連携した訪問支援も行うとしています。

重要なのは、「45時間という法律上の上限がなくなる」わけではないことです。労働基準法36条では、時間外労働の限度時間は原則として月45時間・年360時間と定められており、この規定は今回変更されていません。

では、なぜ「規制緩和」と言われるのか

制度そのものと、監督署が現場で行う指導は別のものです。

法律上は月45時間・年360時間が原則として残ります。一方で、特別条項を締結し、臨時的な特別の事情がある場合には、年720時間以内、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)などの法定上限の範囲で、月45時間を超えることができます。

今回見直されるのは、こうした制度のもとで、監督署が時間数だけを見て『45時間以内に減らしてください』と一律に求める運用です。そのため、労働側からは、法律上の原則は変わらなくても、実務上は45時間超の時間外労働を以前より許容する方向に働くのではないか、という懸念が示されています。

他方、政府側の説明は、労使が合意した36協定と健康確保措置を尊重し、重大・悪質な事案には厳正に対応しながら、個々の事業場の実態に応じた指導へ転換するというものです。厚生労働省も、過重労働による健康障害のおそれが高い場合には、引き続き必要な指導を行うと明記しています。

したがって今回の見直しは、『45時間規制の撤廃』と表現するのは正確ではありません。一方で、『監督指導という実務上のブレーキのかけ方が変わる』という意味で、その効果を注視する必要があります。

会社が確認しておきたいこと

今回の見直しによって、むしろ重要になるのが36協定の中身と実際の運用の一致です。

・現在提出している36協定の限度時間・特別条項を把握しているか

・特別条項を使う条件が、単に『業務繁忙のため』のような曖昧な表現になっていないか

例えば、『受注の集中』『製品不具合への対応』『臨時の受注・納期変更』『月末の決算事務』『棚卸』など、どのような臨時的事情なのかが分かるよう、できるだけ具体的に記載しておくことが大切です。

・36協定で選択した健康・福祉確保措置を実際に行っているか

・長時間労働者への面接指導、勤務間インターバル、代償休日など、自社で定めた措置の記録を残しているか

・労働時間の把握そのものが適切か

36協定は、監督署へ提出するための紙ではありません。今後はこれまで以上に、『何を約束し、それを実際に守っているか』が問われることになります。

海外と比べると、日本の仕組みはどう見える?

EUの労働時間指令では、時間外労働を含む週の労働時間を平均48時間以内とすることに加え、24時間につき連続11時間の休息、週ごとの休息、年4週間以上の有給休暇などを共通の最低基準として定めています。

日本は、1日8時間・週40時間を原則としつつ、労使協定である36協定を届け出ることで時間外・休日労働を可能にし、そのうえで月・年単位の上限を設ける構造です。EUと日本は制度設計が異なるため単純比較はできませんが、EUでは『週当たりの総労働時間と休息』、日本では『法定労働時間を超える時間外労働を労使協定で管理する』という違いが見えます。

今回の見直しで健康・福祉確保措置が重視されることは、日本でも時間数だけでなく休息や健康確保を含めて労働時間管理を見る方向が強まっている、と捉えることもできます。

───── そもそも、36協定 ─────

1947年から2026年まで――「残業のルール」はどう変わってきたか

労基法36条から、罰則付き上限規制、そして今回の監督指導見直しまでをたどります。

1947年、労働基準法とともに誕生

労働基準法は1947年に制定され、原則として1日8時間・週48時間(その後週40時間へ短縮)の法定労働時間を定める一方、第36条に、労使協定を締結して行政官庁へ届け出た場合には時間外・休日労働を可能とする仕組みを置きました。条文番号から『36(サブロク)協定』と呼ばれています。

長い間、上限は「法律」ではなかった

長年、時間外労働の限度は告示による基準で、罰則付きの法律上の上限ではありませんでした。特別条項を設けることで、臨時的な特別の事情がある場合には限度時間を超えることができる仕組みもありました。

2019年、罰則付き上限規制へ

働き方改革関連法による改正労働基準法が2019年4月に大企業、2020年4月に中小企業へ施行され、月45時間・年360時間を原則とする上限が法律に格上げされました。特別条項があっても年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間以内等の上限が設けられました。建設業・自動車運転業務・医師等の一部には猶予・特例があり、2024年4月から適用が広がりました。

2026年、「時間数だけ」から運用実態へ

そして2026年9月、監督署の指導は『45時間以内へ一律に削減』する方式から、36協定に定めた健康・福祉確保措置の履行状況をより重視する方向へ変わります。法定上限ができた2019年が『ルールの強化』だとすれば、2026年は『そのルールを現場でどう運用・監督するか』が変わる節目といえます。

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— Feature Two —

賃金不払い、年間2万2,605件・128億円超なぜ、いまもなくならない?

給与計算がデジタル化された今も、賃金不払いは多数発生しています。法律の基本と日常の労務管理を改めて整理します。

年間2万2,605件、128億円超の賃金不払い

厚生労働省が2026年8月21日に公表した監督指導結果によると、2025年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案は2万2,605件でした。賃金不払いは、会社が倒産して給料が払えないケースだけではありません。労働時間の把握漏れ、残業代の計算誤り、固定残業代の運用ミス、退職時の精算漏れなど、日常の労務管理の中でも起こります。

『払うつもりはあった』では済まず、計算・勤怠・給与システムのどこかにズレがあれば、人数が多い会社ほど金額は積み上がります。

まず、賃金支払いの5原則

労働基準法24条は、賃金について、①通貨で、②直接労働者に、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日に支払うことを原則としています。

税・社会保険料など法令に基づく控除や、労使協定に基づく一定の控除などの例外はありますが、『働いた分を、決められた日に、本人へ確実に支払う』ことが大原則です。

時間外・休日・深夜労働については、労働時間を適切に把握し、割増賃金を正しく計算する必要があります。36協定を締結して残業自体が適法でも、残業代を払わなければ別の労基法違反になります。

監督署に申告されたらどうなる?

労働者から申告があった場合など、賃金不払いが疑われる事業場に対して労働基準監督署が立入調査を行い、法違反が認められれば是正を指導します。厚生労働省の公表資料では、監督指導によって支払いにつながった事例や、悪質なケースの送検事例も紹介されています。

実務では、勤怠記録と給与計算結果を定期的に突合すること、固定残業代を用いる場合には通常賃金部分と割増賃金部分を明確にすること、管理監督者の扱いを肩書だけで判断しないことなど、日常の点検が重要です。

海外では、会社が払えなくなったときどう守る?

賃金保護は世界共通の労働政策です。ILOには1949年の「賃金保護条約(第95号)」があり、さらに1992年には使用者の倒産時に労働者の債権を保護する条約(第173号)が採択されています。

EUでは、使用者が倒産した場合の労働者保護について指令2008/94/ECがあり、加盟国に未払賃金等を保障する制度を求めています。

日本にも、企業倒産等で賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、国が一定範囲の未払賃金を立替払いする制度があります。通常の賃金支払いを会社に厳格に求めつつ、倒産などで会社自身に支払能力がなくなったときには社会的な保障制度を置く――この二段構えは各国に共通して見られます。

───── そもそも、賃金 ─────

給料はなぜ「毎月・本人に・全額」払うのか

1947年の労働基準法から現在まで、賃金保護の基本をたどります。

1947年、労働基準法が賃金支払いをルール化

労働基準法は戦後の1947年に制定され、第24条で賃金支払いの基本原則を定めました。労働者の生活の基盤である賃金を、使用者の都合で現物払いにしたり、第三者へ渡したり、理由なく差し引いたり、支払いを先延ばししたりしないためのルールです。

「賃金」と「労働時間」は切り離せない

月給制であっても、法定時間外・休日・深夜労働があれば割増賃金の計算が必要です。つまり賃金を正しく払うには、まず労働時間を正しく把握しなければなりません。36協定と賃金不払いは別の法律問題ですが、実務上は同じ勤怠データの上に成り立っています。

給与計算が自動化されても、最後は設定がものをいう

給与ソフトや勤怠システムが普及しても、就業規則、所定労働時間、固定残業代、休日区分などの設定が誤っていれば、自動で誤った計算を繰り返します。制度が古い問題というより、現在も続く『運用の問題』として賃金不払いを捉える必要があります。

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— Feature Three —

9月は職場の健康診断実施強化月間「受けて終わり」になっていませんか

一般健診、医師の意見、事後措置、ストレスチェック、健康保持増進。会社の健康管理はどこまで広がっているのでしょうか。

9月は健康診断実施強化月間

厚生労働省は、全国労働衛生週間(10月1日~7日)の準備月間である毎年9月を『職場の健康診断実施強化月間』としています。

2026年度の重点事項を見ると、単に一般健康診断を受けさせるだけではありません。健診結果の記録保存、必要な報告、医師からの意見聴取と事後措置、保健指導、小規模事業場への対応、コラボヘルス、外国人・派遣労働者への対応、ストレスチェック、健康保持増進、治療と就業の両立支援まで幅広く掲げられています。

健康診断は「結果をもらってファイルする」で終わらない

労働安全衛生法66条は、事業者に健康診断の実施を義務づけています。定期健康診断は原則として常時使用する労働者に1年以内ごとに1回です。

重要なのはその後です。異常の所見がある労働者については、就業上の措置について医師等の意見を聴き、必要に応じて就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などを検討します。

健康診断は『病気を見つける福利厚生』というより、仕事によって健康を悪化させないための安全衛生管理の一部と考えると分かりやすいでしょう。

2026年、健康管理はさらに「予防」へ

厚生労働省は8月21日、『事業場における労働者の健康保持増進の在り方に関する検討会』報告書を公表しました。健康診断という一時点の検査だけでなく、労働者の健康保持増進を職場でどう支えるかが継続的に議論されています。

ストレスチェック、メンタルヘルス、治療と仕事の両立、保険者と事業者が連携するコラボヘルスなど、企業の健康管理は『異常を発見して対応する』だけでなく、『健康を悪化させない・より良い状態を支える』方向へ広がっています。

海外では、会社はどこまで健康を診る?

海外では、日本のようにすべての労働者へ一律に『年1回の一般健康診断』を行うというより、仕事による健康リスクとの関係を重視する考え方が目立ちます。

ILOの労働衛生に関する考え方では、就業前、特定の有害業務への従事中、長期休業からの復帰時など、仕事との関連性に応じて健康状態を評価し、業務による健康影響を把握・予防することが重視されています。

EUの労働時間指令でも、夜間労働者については、夜勤に就く前と、その後も定期的に無料の健康評価を受けられるようにすることが求められています。評価の具体的な頻度は加盟国の制度に委ねられており、働き方やリスクに応じて健康状態を確認する仕組みです。

一方、日本では、常時使用する労働者に対して、事業者が原則として毎年、幅広い項目の一般健康診断を実施することが法令で定められています。健康状態を幅広く定期的に確認する点では、日本の制度は手厚い仕組みといえます。

比べてみると、日本は『健康全般を広く定期的に確認する』仕組みが強く、ILO・EUでは『仕事のリスクと健康の関係を見て、必要な評価や措置につなげる』考え方がより前面に出ています。どちらの視点から見ても、健康診断や健康評価を受けて終わりにせず、就業上の配慮や職場環境の改善へつなげることが重要です。

───── そもそも、職場の健康診断 ─────

「病気を見つける」から「働く人の健康を守る」へ

1972年の労働安全衛生法から、ストレスチェック、健康保持増進までの流れをたどります。

1972年、労働安全衛生法が独立

労働者の安全衛生に関する規定はもともと労働基準法の中にありましたが、1972年に労働安全衛生法が制定されました。同法は一般健康診断に加え、有害業務に従事する労働者の特殊健康診断についても法律上の根拠を明確にしました。

健康診断から「事後措置」へ

健康診断は実施するだけでは目的を果たしません。結果をもとに医師の意見を聴き、必要に応じて配置転換や労働時間短縮などの措置につなげる考え方が制度として整備されてきました。

身体だけでなく、こころ・生活習慣・治療との両立へ

その後、過重労働による健康障害防止、メンタルヘルス対策、2015年のストレスチェック制度、治療と仕事の両立支援など、産業保健の対象は広がってきました。現在は、病気の発見だけでなく、健康保持増進を継続的に支えることが政策課題になっています。

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— Feature Four —

マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2026管理職になりたい人がいない?

管理職に課題感を持つ人事・管理職は7割超。『昇進したくない』を個人の意欲の問題で片づけず、管理職という仕事そのものを見直します。

人事も管理職本人も、7割超が「課題あり」

リクルートマネジメントソリューションズが2026年8月31日に公表した調査では、従業員100人以上の企業に勤める人事担当者500人と管理職500人に聞いたところ、管理職に「強い課題感」または「やや課題感」を持つ割合は、人事担当者71.0%、管理職本人78.0%でした。

人事側から見た課題には、管理職のパフォーマンス不足、業務負担の増大、候補者不足などが並びます。管理職候補を増やすうえでの最大の課題は「管理職になりたい社員が減っている」こと。さらに、約3社に1社は管理職候補を増やすための施策を実施していないという結果でした。

『最近の若手は出世したがらない』という一言では済まない状況です。管理職という仕事が、魅力に見える設計になっているかを会社側が問い直す必要があります。

一番期待される「育成」が、一番難しい

同調査では、管理職に最も期待されている役割として「メンバーの育成」が挙げられる一方、管理職本人も育成を難しい業務と認識しています。

しかも現在の管理職は、自ら売上・案件を持つプレイヤーとしての役割を兼ねることも多く、成果管理、部下育成、評価、キャリア支援、メンタルヘルス、多様な働き方への対応まで求められます。

管理職研修を増やすだけでは解決しない可能性があります。任せる業務の整理、権限移譲、管理職同士の支援、評価制度、管理職手当など、『管理職という職務そのもの』を設計し直す視点が必要です。

生成AIは、管理職の仕事を減らせるか

今回の調査では生成AIの活用状況も取り上げられています。管理職の生成AI活用はまだ発展途上で、約半数が未活用。一方、活用している層では一定の効果も実感されています。

会議メモの整理、文書のたたき台、情報整理、面談準備など、AIに任せられる仕事は増えています。ただし、部下との対話、評価、意思決定、責任の引受けまでAIに置き換えられるわけではありません。

AIで『管理職をなくす』というより、管理職が人にしかできない仕事へ時間を使えるようにする。この視点で導入を考える方が現実的でしょう。

海外でも、管理職の仕事は変わっている

管理職の負担増は日本だけの現象ではありません。デジタル化、ハイブリッドワーク、多様な人材のマネジメントなどにより、世界的にもマネジャーに求められる役割は広がっています。

一方で、日本ではプレイングマネジャーとして自分の業務を抱えながら部下を管理するケースが多く、管理職の役割・権限・処遇のバランスが課題になりやすいと言われます。海外比較では肩書や職務区分が異なるため単純な人数比較は避けつつ、『管理職を育てる』だけでなく『管理職の仕事を設計する』という視点を中心に見ていきます。

───── そもそも、管理職 ─────

「偉くなる人」から「組織を動かす専門職」へ

日本企業の管理職像がどう変わってきたのかを、組織と働き方の変化からたどります。

かつて、昇進は会社員人生の一本道だった

長期雇用・年功的な人事制度の下では、勤続と経験を重ね、主任・係長・課長・部長へ昇進していくことが会社員の典型的なキャリアとして描かれてきました。管理職になることは、権限・賃金・社会的評価の上昇と結びつきやすいものでした。

成果主義と組織のフラット化で役割が変わる

1990年代以降、成果主義、人員構成の変化、組織のフラット化などが進み、管理職には単なる指示・監督ではなく、チームの成果、育成、評価を同時に担うことが求められるようになります。自ら実務も担うプレイングマネジャーも一般化しました。

いま問われているのは「誰を管理職にするか」だけではない

働き方や価値観が多様化し、管理職になること自体を望まない社員も珍しくありません。管理職候補を探すだけでなく、仕事量、権限、処遇、支援体制を含めて『管理職になってもよいと思える仕事』にできるか。管理職不足は、人材の問題であると同時に組織設計の問題になっています。

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— Feature Five —

社会保険の適用拡大「106万円の壁」撤廃から2035年まで

2026年10月予定の賃金要件撤廃から2035年の企業規模要件撤廃まで。短時間労働者の社会保険は、10年かけて大きく変わります。

まず、いまの加入ルールを整理

社会保険の適用拡大を理解する前に、現在のルールを簡単に整理しておきましょう。

まず、通常の労働者の週所定労働時間と月所定労働日数の両方が4分の3以上であれば、企業規模にかかわらず健康保険・厚生年金の加入対象になります。これが、いわゆる『4分の3基準』です。

その4分の3基準を満たさない短時間労働者について、現在は一定の企業規模要件に該当する事業所で、『週20時間以上』『月額8.8万円以上』『2か月を超えて使用される見込み』『学生ではないこと』などの要件を満たす場合に加入対象となります。

逆に、企業規模要件に該当しない事業所では、現時点では、この短時間労働者向けの『月額8.8万円以上』という賃金要件は原則として問題になりません。つまり、いわゆる『106万円の壁』は、すべての会社・すべての短時間労働者に一律にかかる基準ではありません。

今回の改正は、この短時間労働者向けの要件を段階的にシンプルにして、対象を広げていくものです。

2026年10月、「月8.8万円以上」は撤廃予定

短時間労働者の適用要件のうち、月額8.8万円以上という賃金要件は、2025年の年金制度改正法で撤廃することが定められました。

施行日は、法律上は公布から3年以内の政令で定める日とされています。厚生労働省は最低賃金の動向を踏まえ、2026年10月の撤廃を予定しており、具体的な施行日は政令で定められます。

月8.8万円は年収換算でおおむね106万円となるため、『106万円の壁』と呼ばれてきました。賃金要件が撤廃されれば、少なくともこの金額を境に社会保険加入を避けるという働き方は意味が変わります。

企業規模要件も、2035年まで段階的になくなる

もう一つの大きな変更が企業規模要件です。現在は厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等が対象ですが、2027年以降、段階的に対象企業が広がります。

時期 企業規模 主な変更
2016年10月501人以上短時間労働者への適用拡大を開始
2022年10月101人以上企業規模要件を縮小
2024年10月51人以上さらに対象拡大
2026年10月予定51人以上月額8.8万円以上の賃金要件を撤廃予定
2027年10月36人以上企業規模要件を縮小
2029年10月21人以上企業規模要件を縮小
2032年10月11人以上企業規模要件を縮小
2035年10月全企業企業規模要件を撤廃
厚生労働省は、最終的に企業規模にかかわらず、週20時間以上働く短時間労働者が社会保険に加入する仕組みへ移行すると説明しています。

『うちは50人以下だから関係ない』という会社も、今後数年の採用計画・人件費計画を考える際には、自社がいつ対象になるのかを把握しておく必要があります。

雇用保険と並べると、これからの姿が分かりやすい

短時間労働者の社会保険は要件が多く、分かりにくい制度でした。そこで雇用保険と並べると、今後どこへ向かっているかが見えてきます。

社会保険
(短時間労働者)
雇用保険
週の所定労働時間20時間以上20時間以上
雇用見込み2か月を超えて使用される見込み31日以上
賃金要件月8.8万円以上 → 2026年10月撤廃予定なし
企業規模現在51人以上 → 2035年撤廃原則、企業規模要件なし
学生原則対象外原則対象外(例外あり)
雇用保険は原則として、週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあれば、企業規模や賃金額にかかわらず加入します。

社会保険も賃金要件・企業規模要件がなくなっていくことで、『週20時間以上』という基準の重要性が一段と高まります。ただし、雇用見込みや学生の扱いなど制度ごとの違いは残るため、『20時間なら全部同じ』というわけではありません。

経営者が今から考えておきたいこと

適用拡大は、単に社会保険の手続き件数が増えるだけではありません。会社負担の社会保険料が増える一方、厚生年金・健康保険に加入できることは採用や定着の条件にもなります。

・現在、週20時間前後で働くパート・アルバイトが何人いるか

・今後の企業規模要件のどの段階で自社が対象になるか

・社会保険料の会社負担を中期の人件費計画に織り込んでいるか

・『扶養内で働きたい』従業員へ制度変更を説明できるか

・採用時の労働時間設計をどうするか

制度が変わってから慌てるのではなく、数年先まで見通せるのが今回の改正の特徴です。

───── そもそも、短時間労働者の社会保険 ─────

正社員の「4分の3」から、週20時間へ

パート・アルバイトの社会保険は、なぜ少しずつ対象を広げてきたのでしょうか。

もともとの基準は「正社員の4分の3」

健康保険・厚生年金では、一般社員の所定労働時間・所定労働日数のおおむね4分の3以上働く人を被保険者とする基準が長く使われてきました。短時間のパート労働者の多くは対象外となり、配偶者の扶養や国民年金・国民健康保険に入るケースが一般的でした。

2016年、週20時間の短時間労働者へ広がる

2016年10月、従業員501人以上の企業を対象に、4分の3基準を満たさない短時間労働者にも適用が広がりました。その後、2022年に101人以上、2024年に51人以上へと企業規模要件が縮小されてきました。

なぜ段階的なのか

社会保険への加入は、労働者にとって保障が厚くなる一方、本人負担と会社負担の保険料が発生します。特に中小企業への急激な負担増を避けるため、対象企業を段階的に広げる方法が取られてきました。今回の改正も、企業規模要件を一度になくすのではなく、2035年まで時間をかけて撤廃します。

最後に残る中心軸が「週20時間」

賃金要件と企業規模要件がなくなると、短時間労働者については週所定労働時間20時間以上であることが、加入を考える中心的な基準になります。雇用保険も週20時間を一つの基準としており、制度は異なりますが、短時間労働者を社会保障の対象にする際の重要な境目として20時間が共通して現れます。

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— Feature 6 —

厚生労働省よりいま見ておきたい人事労務情報

厚生労働省「人事労務マガジン」から、今月押さえておきたい情報をご紹介します。詳しくはリンク先の原文をご確認ください。

教育訓練休暇給付金
一定の要件を満たす雇用保険の一般被保険者が、就業規則等に基づき連続30日以上の無給の教育訓練休暇を取得する場合に、基本手当に相当する給付を受けられる制度です。『学び直しのために長期で休む』という選択肢を支える制度として、まず概要だけ押さえておきましょう。

ハラスメント事案解決のための専門家派遣
厚生労働省の人事労務マガジン特集第247号では、職場のハラスメント事案の解決に向けた専門家派遣事業を紹介しています。10月1日からカスハラ対策・求職者等へのセクハラ対策が義務化される直前の時期でもあり、自社だけで対応が難しいケースに備えて支援策を確認しておきたいところです。

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