SOKEI労務通信2026年10月号
人事労務 NEWSLETTER SOKEI労務通信
社会保険労務士法人総合経営サービス肥後労務管理事務所から、毎月の人事労務トピックスをお届けします。
今月号は「新設の保険料調整制度とは」「求職者等へのセクハラ対策、10月1日から義務に」などを中心にお届けします。
今月のトピックス
直近2か月の人事労務に関わる主な動きをお届けします。
新設「保険料調整制度」、50人以下の会社が対象
10月1日、社会保険の短時間労働者の賃金要件(月額8.8万円以上)の撤廃とあわせて、「保険料調整制度」が始まりました。従業員50人以下の会社がこれから短時間労働者を社会保険に加入させる場合に、標準報酬月額12.6万円以下のパート・アルバイトについて、本人の保険料負担を通常の50%から最大25%まで軽減し、その分を会社が負担できる仕組みです。会社が一時的に追加負担した分は、後日の保険料から差し引く形で還付されます。本号Feature 1で、対象や負担割合を整理します。
求職者等へのセクハラ対策、10月1日から義務に
10月1日から、就職活動中の学生やインターンシップ参加者など「求職者等」に対するセクシュアルハラスメントの防止措置が事業主の義務になりました。ちょうど内定式の時期。面接、インターン、OB・OG訪問、内定者フォローなど、採用の現場でのルールが問われます。本号Feature 2で、採用担当者向けに整理します。
技能実習から育成就労へ、施行まであと半年
技能実習制度に代わる「育成就労制度」が2027年4月1日に施行されます。9月1日からは、施行日前の育成就労計画の認定申請の受付も始まりました。人材育成と確保を正面から目的に掲げ、一定の条件のもとで本人の意向による転籍も認められる制度です。本号Feature 3で、受け入れ企業が今から考えておきたいことを整理します。
労働基準法の見直し、労政審で議論が再開
厚生労働省は9月16日、労働政策審議会労働条件分科会を開催し、労働基準法など労働基準関係法制の見直しに向けた議論を再開しました。勤務間インターバル、連続勤務、「つながらない権利」、裁量労働制、副業・兼業など論点は多岐にわたります。まだ何も決まっていない段階ですが、方向性を知っておくことには意味があります。本号Feature 4で整理します。
長時間労働が疑われる事業場、4割近くで違法な時間外労働
厚生労働省は9月15日、長時間労働が疑われる事業場に対する2025年度の監督指導結果を公表しました。対象となった29,150事業場のうち、違法な時間外労働があったのは11,228事業場(38.5%)。過重労働による健康障害防止措置が未実施の事業場も5,919(20.3%)にのぼりました。11月には例年どおり「過重労働解消キャンペーン」として重点的な監督指導が予定されています。本号Feature 4の労働基準法の見直しとあわせて、自社の労働時間管理を点検する機会にしてください。
令和8年版「労働経済の分析」、テーマはAIと労働市場
厚生労働省は9月29日、令和8年版「労働経済の分析」(労働経済白書)を公表しました。今年のテーマは「AI等技術革新が進む中での労働市場の現状と課題」。日本の個人の生成AI利用率は26.7%とOECD平均(36.8%)を下回り、AIを使う労働者が会社から訓練を受けた割合も米国の約半分にとどまる一方、AIが大きな雇用減少をもたらしている証拠は現時点で得られていないとしています。カギとして挙げられたのは、AIへの投資と人への投資を両輪で進めること。本号Feature 5で、中小企業にとっての意味を掘り下げます。
新設の保険料調整制度とはパートの社会保険、誰が入り、誰の負担が軽くなる?
10月1日に始まった「保険料調整制度」は、これから社会保険の適用拡大を迎える従業員50人以下の会社のための特例です。ややこしい加入のルールから整理し直し、制度の対象と仕組みを確認します。
なぜ、この制度ができたのか
社会保険の短時間労働者への適用は、10月1日の賃金要件(月額8.8万円以上)の撤廃に続き、2027年10月以降は企業規模要件の縮小によって、従業員50人以下の会社にも段階的に広がっていきます。
新たに加入するパート・アルバイトにとって、給与から保険料が天引きされ手取りが減ることは、働く時間を抑える『就業調整』の大きな理由になってきました。そこで、加入の入口の一定期間に限って本人負担を軽くし、加入への移行をなめらかにするために設けられたのが「保険料調整制度」です。
まず整理――パート・アルバイトが社会保険に入るのはどんなとき?
9月号でも取り上げましたが、短時間労働者の加入ルールは会社の規模によって変わるため、改めて整理します。人数は厚生年金保険の被保険者数で数えます。
| 働き方 | 51人以上の会社 (特定適用事業所) | 50人以下の会社 (任意特定適用あり) | 50人以下の会社 (任意特定適用なし) |
|---|---|---|---|
| 正社員の4分の3以上 働く人 | 加入 | 加入 | 加入 |
| 4分の3未満・週20時間以上 (2か月超の雇用見込み、 学生でない) | 加入 (賃金要件なし) | 加入 (賃金要件なし) | 加入しない (2027年10月から 順次加入) |
| 週20時間未満 | 加入しない | 加入しない | 加入しない |
※任意特定適用:50人以下でも、労使の合意にもとづく申出により、短時間労働者を加入対象とする事業所のことです。
10月1日の改正で、表の真ん中の2列から『月額8.8万円以上』という賃金の条件がなくなりました(表中の「賃金要件なし」)。一方、50人以下の会社で労使の合意もしていない場合は、週20時間以上働くパート・アルバイトも、現時点では加入の対象になりません。
※最低賃金の減額特例の許可を受けている方など、一部例外があります。
これからの予定――自社はいつから対象になる?
何度読んでも分かりにくいのが、今後の加入ルールの変更予定です。週20時間以上働くパート・アルバイト(正社員の4分の3未満・学生でない人)が社会保険に加入する会社が、いつ、どこまで広がるのかを一つの表にまとめました。
| 厚生年金保険の 被保険者数 | 現在 | 2027年10月〜 | 2029年10月〜 | 2032年10月〜 | 2035年10月〜 |
|---|---|---|---|---|---|
| 51人以上 | ○加入 | ○加入 | ○加入 | ○加入 | ○加入 |
| 36〜50人 | ― | ◎ここから加入 | ○加入 | ○加入 | ○加入 |
| 21〜35人 | ― | ― | ◎ここから加入 | ○加入 | ○加入 |
| 11〜20人 | ― | ― | ― | ◎ここから加入 | ○加入 |
| 10人以下 | ― | ― | ― | ― | ◎ここから加入 |
自社の規模の行を横に見て、『◎』のところが、パート・アルバイトの加入が義務になる時期です。保険料調整制度は、この『◎』の時点から使えるようになります(申出が必要)。
あわせて、次の点も押さえておきましょう。
・2026年10月:賃金要件(月額8.8万円以上、いわゆる『106万円の壁』)が撤廃。保険料調整制度もスタート
・2029年10月:常時5人以上を雇う個人事業所は、業種を問わず社会保険の適用対象に(施行時点ですでにある非適用業種の個人事業所は、当分の間は対象外)
・2035年10月:企業規模要件がなくなり、会社の規模にかかわらず『週20時間以上』が加入の基準に
人数は、1年のうち6か月以上その人数を超える見込みかどうかで判断します。正社員やフルタイムの人も含めた厚生年金の被保険者数で数える点にご注意ください。
保険料調整制度の対象は?
保険料調整制度を使えるのは、上の表でいう『50人以下の会社が、これから短時間労働者を加入させる』場面です。
| 保険料調整制度の対象 | |
|---|---|
| どの会社? | ①2026年10月以降に、労使合意により任意特定適用事業所となった会社(短時間労働者の加入を任意に始めた会社) ②2027年10月以降の適用拡大で、新たに加入が義務になる会社(36〜50人→2027年10月、21〜35人→2029年10月、11〜20人→2032年10月、10人以下→2035年10月) |
| 対象外の会社 | すでに51人以上の会社、2026年9月30日以前から任意特定適用事業所となっていた会社 |
| 誰が? | 上の会社で、短時間労働者(正社員の4分の3未満・週20時間以上・学生でない)として加入している人のうち、標準報酬月額12.6万円以下の人 |
| 対象外の人 | 正社員の4分の3以上働く人(一般の被保険者)、標準報酬月額12.6万円を超える人 など |
| 期間 | 通算3年間 |
| 使い方 | 事業主が期限内に申し出て利用。会社単位で適用され、対象者の一部だけに使うことはできない |
つまり、2026年10月の時点で実際に使えるのは、50人以下で、労使の合意により任意特定適用事業所となった会社です。多くの50人以下の会社にとっては、自社が加入の義務の対象になる時期(36〜50人なら2027年10月)に向けて、知っておきたい制度といえます。
仕組み――本人負担を最大25%に
通常、健康保険・厚生年金の保険料は会社と本人が50%ずつ負担します。保険料調整制度を使うと、本人の負担割合が下がり、その分を会社が負担します。
| 標準報酬月額 | 本人負担(通常は50%) | 会社負担 |
|---|---|---|
| 88,000円以下 | 25% | 75% |
| 98,000円 | 30% | 70% |
| 104,000円 | 36% | 64% |
| 110,000円 | 41% | 59% |
| 118,000円 | 45% | 55% |
| 126,000円 | 48% | 52% |
1〜2年目は上の表の割合で、3年目は軽減幅がおおむね半分になり、通算3年間で終了します。
会社が一時的に追加負担した分は、3か月後の保険料額から全額差し引かれる形で還付されます。ただし、保険料を納付期限までに納めず、督促状で指定された期限までにも納めなかった月の追加負担分は還付されないため、期限内の納付が前提です。
利用するには、事業主が「保険料調整開始申出書」を提出します。申出の期限は、対象となった日から2年を経過した日が属する月の前月までです。
経営者が今から考えておきたいこと
・自社の厚生年金保険の被保険者数は何人で、短時間労働者の加入が義務になるのはいつか
・週20時間以上働くパート・アルバイトは何人いて、そのうち標準報酬月額12.6万円以下の人は何人か
・義務化を待たずに、労使合意で任意に加入を始めるという選択肢をどう考えるか
・『扶養内で働きたい』従業員に、加入のメリット(将来の厚生年金、傷病手当金など)と手取りの変化を説明できるか
社会保険への加入は、会社にとってはコストである一方、働く人にとっては保障の厚みでもあります。人手不足の中で『加入を避けるための就業調整』を続けるか、『加入を前提に長く働いてもらう』か。制度の変化は、働き方の設計を見直すきっかけにもなります。
なぜ保険料は会社と本人で半分ずつなのか
保険料調整制度は、大正時代から続いてきた「折半」のルールに期間限定の特例を設けるものです。その前提と歴史をおさらいします。
健康保険・厚生年金は原則「折半」
健康保険と厚生年金保険の保険料は、原則として事業主と被保険者が半分ずつ負担します。給与から天引きされる本人負担分と同じ額を、会社も負担しているということです。
大正時代の健康保険法から、最初から折半
日本で最初の社会保険は、1922年(大正11年)に制定された健康保険法です(関東大震災の影響で、保険給付が本格的に始まったのは1927年=昭和2年)。保険料は制定当初から、会社と働く人が半分ずつ負担する仕組みでした。
もっとも、当時は労災保険がなく、健康保険が仕事中のけがや病気もカバーしていました。そのため、仕事中の分は会社が全額、仕事以外の分は会社3分の1・本人3分の2を負担し、全体でちょうど折半になるよう設計されていました。
厚生年金も、1941年(昭和16年)の労働者年金保険法(1944年に厚生年金保険法へ改称)で始まったときから、保険料は労使折半です。つまり『折半』は、100年近く続いてきた社会保険の基本ルールなのです。
会社が負担する理由
被用者保険は、雇用されて働く人の病気やけが、老後の生活などを、雇う側と働く側が共に支える仕組みとして発展してきました。会社負担は『福利厚生』というより、人を雇うことに伴う社会的な責任の一部と位置づけられています。
特例は「加入の入口」の負担を和らげるため
新たに加入する人にとって、保険料の天引きが急に始まることは就業調整(働く時間を減らすこと)の原因になりがちです。保険料調整制度は、折半の原則を変えるのではなく、加入直後の一定期間に限って本人負担を軽くし、加入への移行をなめらかにするための特例といえます。
求職者等へのセクハラ対策、10月1日から義務に内定式の季節に見直したい、採用現場のルール
10月1日から、就職活動中の学生やインターン生など「求職者等」へのセクシュアルハラスメント防止措置が事業主の義務になりました。採用の現場で何を決めておくべきかを整理します。
10月1日から、何が義務になったのか
男女雇用機会均等法の改正により、2026年10月1日から、事業主には、自社の従業員に対するセクシュアルハラスメントだけでなく、「求職者等」に対するセクシュアルハラスメントを防止するための措置が義務づけられました。
求職者等には、応募者や面接を受ける人のほか、インターンシップの参加者、OB・OG訪問をする学生なども含まれます。
カスタマーハラスメント対策の義務化と同じ10月1日の施行で、パワーハラスメント防止措置のときのような中小企業向けの猶予期間はありません。従業員を雇用するすべての事業主が対象です。
カスハラ・パワハラとどう違う?
10月1日には、カスタマーハラスメント対策も同時に義務化されました。さらに以前から義務となっているパワハラ・セクハラ対策もあり、『どれが、誰を、何から守る制度なのか』が混同されがちです。主な違いを整理すると次のとおりです。
| 求職者等へのセクハラ | カスハラ | (参考)パワハラ | |
|---|---|---|---|
| 義務化 | 2026年10月1日 | 2026年10月1日 | 2020年6月(中小企業は2022年4月) |
| 根拠となる法律 | 男女雇用機会均等法 | 労働施策総合推進法 | 労働施策総合推進法 |
| 守る相手 | 求職者等(応募者、インターン生、OB・OG訪問の学生など) | 自社の従業員 | 自社の従業員 |
| 主な行為者 | 面接官・採用担当者など自社の従業員 | 顧客・取引先など社外の人 | 上司・同僚など社内の人 |
| 会社の主な対応 | 方針の明確化・周知、求職者も使える相談窓口、事後の対応 | 方針の明確化・周知、相談体制、発生時の対応と従業員の保護 | 方針の明確化・周知、相談体制、事後の対応 |
| 中小企業の猶予 | なし | なし | あり(約2年) |
会社に求められる措置
求められる措置の基本的な枠組みは、従業員向けのセクハラ防止措置と同じです。
・求職者等へのセクハラを行ってはならない旨の方針を明確にし、面接官・採用担当者を含む従業員に周知・啓発する
・行為者に対する懲戒などの対処方針を就業規則等に定める
・求職者等からの相談に対応できる窓口を設け、周知する
・相談があった場合に、事実関係を迅速・正確に確認し、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止策を講じる
・相談者のプライバシーを守り、相談したことを理由とする不利益な取扱いをしない
形式的に規程を整えるだけでなく、実際に面接や面談の場で運用できることが重要です。
採用の現場で、具体的に決めておきたいこと
求職者と会社の間には『選ぶ・選ばれる』という力関係があり、求職者は不快なことがあっても声を上げにくい立場にあります。採用の現場では、次のようなルールを決めておくと実効性が高まります。
・面接や面談は、原則として業務時間内に、社内の会議室やオンラインなど公式の場で行う
・採用担当者が、個人のSNSや私用の連絡先で求職者とやり取りしない
・飲食を伴う面談や懇親会を行う場合のルール(複数名で対応する、時間・場所の制限など)を定める
・容姿、交際関係、結婚・出産の予定など、選考に関係のない性的な言動や質問をしないことを面接官研修で徹底する
・採用ページや募集要項に、求職者が利用できる相談窓口を明記する
10月1日は多くの企業で内定式が行われる時期でもあります。内定者との懇親会やインターン後のフォローも、ルールの対象として見直しておきましょう。
海外では、採用の場面はどう扱われている?
欧米では、採用の過程での差別やハラスメントも、雇用差別禁止法の対象として扱われてきました。
例えばアメリカでは、雇用差別を禁じる公民権法第7編が応募者も保護の対象としています。EUでも、男女の均等待遇に関する指令が、採用を含む『雇用へのアクセス』の段階での差別やハラスメントを対象としています。
日本では、これまでセクハラ防止措置の対象が主に雇用している労働者に限られていましたが、今回の改正で、採用の入口の段階まで事業主の責任が明確に広がりました。採用ブランディングの観点からも、『安心して応募できる会社』であることを示す意味は大きいといえます。
「配慮」から「措置義務」、そして採用の入口へ
男女雇用機会均等法のもとで、セクハラ対策はどのように強化されてきたのでしょうか。
1986年、男女雇用機会均等法の施行
1986年に男女雇用機会均等法が施行されましたが、当初はセクシュアルハラスメントに関する明文の規定はありませんでした。
1999年、「配慮義務」から2007年「措置義務」へ
1997年の改正(1999年施行)で、事業主にセクハラ防止のための配慮義務が設けられました。さらに2006年の改正(2007年施行)で、配慮義務は措置義務へと強化され、男性に対するセクハラも対象となりました。
2020年、相談を理由とする不利益取扱いの禁止
2019年の改正(2020年施行)では、パワハラ防止措置の義務化とあわせて、セクハラの相談をしたことなどを理由とする不利益な取扱いの禁止が法律に明記されるなど、対策が強化されました。
2026年、雇用の「前」へ
そして2026年10月、防止措置の対象が、まだ雇用関係にない求職者等にまで広がりました。『雇ってからの職場環境』だけでなく、『採用の入口』も会社の責任の範囲になったことが、今回の改正の大きな意味です。
技能実習から育成就労へ2027年4月の施行まで、あと半年
外国人技能実習制度に代わる「育成就労制度」が2027年4月に始まります。9月からは施行前の計画認定申請の受付も始まりました。受け入れ企業にとって何が変わるのかを整理します。
何のための制度に変わるのか
技能実習制度は、開発途上国への技能移転による『国際貢献』を目的としてきました。しかし実際には人手不足を補う役割を担っているという目的と実態のずれや、実習生の権利保護の問題が指摘されてきました。
2027年4月1日に施行される育成就労制度は、『人材の育成』と『人材の確保』を正面から目的に掲げます。原則3年間の就労を通じて、特定技能1号の水準の技能を持つ人材に育成することが制度の基本的な考え方です。
受け入れ企業にとっての主な変化
・在留期間は原則3年。その後、要件を満たせば特定技能1号への移行が想定されている
・入国時に一定の日本語能力(A1相当など)が求められる
・一定の条件のもとで、本人の意向による転籍(転職)が認められる。同一の受け入れ先で1〜2年(分野ごとに設定)以上働いていること、日本語能力や技能の要件を満たすことなどが条件
・これまでの監理団体は「監理支援機関」に、外国人技能実習機構は「外国人育成就労機構」に改組される
特に転籍が認められる点は大きな変化です。これまでのように『受け入れたら原則そのまま』ではなく、待遇や職場環境によっては他社へ移ることもありうる前提で、定着策を考える必要があります。
施行までのスケジュール
施行は2027年4月1日ですが、準備はすでに始まっています。
外国人技能実習機構では、2026年9月1日から、施行日前の育成就労計画の認定申請の受付を開始しました。2027年4月以降に育成就労外国人の受け入れを予定している企業は、この申請が必要になります。申請先は、会社の所在地を管轄する地方事務所です。
また、現在の監理団体が監理支援機関として許可を受けるための手続きも進められています。現在技能実習生を受け入れている企業は、利用している監理団体が監理支援機関の許可を受ける予定かどうかを確認しておきましょう。
技能実習制度は育成就労制度の施行に伴い廃止されますが、施行時点で技能実習を行っている人などについては経過措置が設けられています。
会社が、いまからできること
・今後数年の人員計画の中で、外国人材をどの分野・どの人数で受け入れるかを整理する
・利用する監理支援機関(現在の監理団体)の許可取得の見通しを確認する
・入国前・入国後の日本語教育をどう支えるかを考える
・賃金、住居、教育、相談体制など、転籍を前提としても『選ばれる』職場の条件を見直す
・特定技能での受け入れと比べ、自社にとってどちらが適しているかを検討する
あわせて押さえておきたいのが、制度が変わっても労働基準法などのルールは日本人と同じく適用されるという点です。厚生労働省が9月15日に公表した2025年の監督指導結果では、技能実習生を受け入れている13,148事業場のうち73.2%、特定技能外国人を受け入れている8,082事業場のうち76.5%で労働基準関係法令の違反が見つかりました。主な違反は、機械などの安全基準、健康診断結果についての医師からの意見聴取、割増賃金の支払いです。
外国人材の受け入れは、労務管理・社会保険・在留資格が交差する分野です。制度の切り替え期は手続きの負担も大きくなるため、早めの準備が欠かせません。
1993年から2027年まで――「実習」から「育成就労」へ
30年以上続いた技能実習制度は、なぜ見直されることになったのでしょうか。
1993年、技能実習制度の創設
外国人技能実習制度は、1993年に創設されました。日本で培われた技能・技術を開発途上国等へ移転し、その国の経済発展を担う人材づくりに協力するという『国際貢献』が目的とされてきました。
2017年、技能実習法の施行
実習生の保護が課題となる中、2017年に技能実習法が施行され、外国人技能実習機構の設立や監理団体の許可制など、監督体制が強化されました。
2019年、特定技能の創設
2019年には、人手不足分野で一定の技能を持つ外国人を『労働者』として受け入れる在留資格「特定技能」が創設されました。技能実習から特定技能へ移る人も増え、両制度の関係が課題になっていきます。
2024年、育成就労制度の創設が決まる
政府の有識者会議での議論を経て、2024年に育成就労制度を創設する改正法が成立しました。技能実習を廃止し、育成就労から特定技能へとつながる一貫したキャリアの道筋をつくることが、新制度の大きな狙いです。
労働基準法、見直し議論が再開40年ぶりの大改正は、どこへ向かうのか
9月16日、労働政策審議会で労働基準法の見直しに向けた議論が再開しました。何が論点になっていて、何がまだ決まっていないのか。会社が今から備えられることと合わせて整理します。
9月16日、労政審で議論が再開
厚生労働省は2026年9月16日、第211回労働政策審議会労働条件分科会を開催し、労働基準関係法制の見直しに向けた議論を再開しました。
労働基準法の見直しは、2025年1月に厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が報告書を公表して以降、議論が続いてきたものです。当初は2026年の通常国会への法案提出も見込まれていましたが、提出は見送られていました。
今回の再開は、2026年7月21日に閣議決定された「日本成長戦略」と「骨太の方針2026」を受けたもので、分科会では、厚生労働省から「月2〜3回程度の頻度で議論を行う」案が示されています。
ただし現時点では、法案の内容も提出時期も決まっていません。ここでご紹介するのは『論点』であり、『決定事項』ではない点にご注意ください。
主な論点は何か
分科会で議論の対象として挙げられている主な論点は、次のとおりです。
・勤務間インターバル制度(終業から次の始業までの休息時間の確保)
・連続勤務の規制(何日まで連続して働かせてよいか)
・「つながらない権利」(勤務時間外の業務連絡への対応)
・裁量労働制、変形労働時間制、テレワーク・フレックスタイム制など柔軟な働き方の制度
・副業・兼業をする人の労働時間の通算と割増賃金
・法定休日の特定、年次有給休暇
・労働者の過半数代表者の選び方と役割
研究会の報告書では、例えば「13日を超える連続勤務をさせてはならない旨の規定を設けるべき」「法定休日をあらかじめ特定すべき」といった方向性も示されていました。今後の分科会で、これらがどこまで法律に盛り込まれるかが焦点になります。
「規制強化」と「柔軟化」が同時に議論される
今回の見直しの特徴は、働く人を守る方向の規制強化と、働き方を柔軟にする方向の見直しが、同じテーブルで議論されていることです。
勤務間インターバルや連続勤務の規制は、長時間労働や過労による健康障害を防ぐ方向の論点です。一方、裁量労働制の対象拡大や、副業・兼業時の労働時間通算ルールの見直しなどは、企業や働く人の選択肢を広げる方向の論点として議論されています。
労働者側からは健康確保の後退を懸念する声が、使用者側からは画一的な規制が実態に合わないという声があり、労使の意見の違いは小さくありません。9月号で取り上げた36協定の監督指導見直しと同じく、『時間数だけで管理する』から『健康確保と実態に応じた管理』へという流れの中にある議論ともいえます。
会社が、いまからできること
法改正の中身が決まるのはこれからですが、どの方向に決まっても役に立つ準備があります。
・法定休日を就業規則でどう定めているか確認する(「日曜日」など特定しているか)
・連続勤務が長くなっている部署やシフトがないか把握する
・終業から次の始業までの間隔(インターバル)の実態を勤怠データで見てみる
・勤務時間外のメールやチャット連絡について、社内ルールがあるか確認する
・36協定などを結ぶ際の過半数代表者を、会社の指名ではなく、投票や挙手など適正な手続きで選んでいるか確認する
いずれも、現行法の下でも労務管理として意味のある点検です。改正が決まってから慌てるより、実態を知っておくことが最大の備えになります。
海外では、休息と連続勤務をどう定めている?
EUの労働時間指令では、24時間につき連続11時間以上の休息と、7日ごとに24時間の休息(1日の休息11時間と合わせて連続35時間)を確保することが、加盟国共通の最低基準とされています。日本で議論されている勤務間インターバルや連続勤務の規制は、この考え方に近いものです。
また「つながらない権利」は、フランスが2017年に、一定規模以上の企業に対して勤務時間外のデジタル機器の利用ルールを労使で話し合うよう法律で定めたことで広く知られるようになりました。
もっとも、日本の議論は、36協定による時間外労働の管理という日本独自の仕組みの上に積み重ねられるものです。海外の制度をそのまま持ち込むのではなく、日本の実情にどう合わせるかが問われています。
1947年、1987年、2018年――労働時間ルールの節目
なぜ今回の見直しが「40年ぶり」と言われるのか。労働基準法の大きな節目をたどります。
1947年、労働基準法の制定
労働基準法は1947年に制定され、1日8時間・週48時間の法定労働時間、休日、年次有給休暇など、労働条件の最低基準を定めました。
1987年、週40時間制と柔軟な働き方の制度
1987年の改正では、法定労働時間を週48時間から週40時間へ短縮する方針が定められ(段階的に実施)、あわせて変形労働時間制の拡充、フレックスタイム制や裁量労働制の導入が行われました。労働時間の『短縮』と『柔軟化』を同時に進めた大きな改正で、今回の見直しが「約40年ぶりの大改正」と言われるのはこのためです。
2018年、働き方改革関連法
2018年の働き方改革関連法では、時間外労働の上限規制が罰則付きで法律に定められ、年5日の年次有給休暇の取得義務、勤務間インターバル制度の導入の努力義務なども設けられました。
2026年、次の見直しへ
今回の見直しは、テレワーク、副業・兼業、多様な働き方の広がりを背景に、労働時間や休日・休息のルールを包括的に見直そうとするものです。2018年の改正が『上限を設ける』改正だったとすれば、今回は『休息と健康をどう確保するか』が大きなテーマになりそうです。
労働経済白書2026、テーマはAIAI時代の人材育成に、会社はどう向き合うか
9月29日公表の令和8年版「労働経済の分析」は、AIが労働市場に与える影響を正面から取り上げました。データから見える日本の現在地と、中小企業にとっての示唆を読み解きます。
9月29日公表、今年のテーマは「AI」
厚生労働省は2026年9月29日、令和8年版「労働経済の分析」(いわゆる労働経済白書)を閣議に報告し、公表しました。今回で77回目となり、今年の分析テーマは「AI等技術革新が進む中での労働市場の現状と課題」です。
第Ⅰ部では2025年の雇用情勢を振り返っています。就業者数・雇用者数は過去最高に達し、春季労使交渉の賃上げは2年連続で5%台となりました。一方で、物価が4年連続で3%以上の高い水準となったことから、実質賃金は2025年まで4年連続で減少しました(2026年に入ってからは、名目賃金の伸びと物価上昇の鈍化によりプラスで推移しています)。
人手不足と賃上げ圧力が続く中で、AIをどう使い、人をどう育てるか。第Ⅱ部はこの問いに多くのデータで向き合っています。
日本の生成AI利用率は26.7%、OECD平均を下回る
白書が示す国際比較では、個人の生成AIの利用率は、日本が26.7%で、OECD平均の36.8%を下回りました。フランス(37.5%)やドイツ(32.3%)と比べても低い水準です。
さらに差が大きいのが、AIを使う人への教育です。AIを利用している労働者のうち、企業による訓練等があったと答えた割合は、製造業では米国62.7%に対して日本は33.3%、金融・保険業では米国60.5%に対して日本は26.9%にとどまりました。
つまり日本では、AIを使う人がまだ多くないうえに、使っている人も『会社から教わらず、自己流で使っている』ケースが多いということです。
AIは仕事を奪うのか
気になるのは雇用への影響です。白書は先行研究を整理したうえで、マクロで見ると、AIによって大きな雇用の減少が生じている証拠は現時点では得られていないとしています。
ただし、職種によって影響は異なります。白書で紹介されている経済産業省の推計では、2040年には事務職が約440万人余剰となる一方、AI・ロボット等を活用する人材は約340万人不足するとされています。
仕事が『なくなる』というより、『求められる仕事の中身が入れ替わる』。人手不足の中小企業にとっては、事務の負担をAIで減らし、その分の人手を現場や顧客対応に回すという発想が現実的です。
カギは「労使双方の学び」と「メタスキル」
白書が強調するのは、AIへの投資と人への投資をセットで進めることです。会社が訓練を行い、働く人も自ら学び直しをしている――この両方がそろっているAI利用者ほど、仕事の成果などでAIによる改善効果を報告しているという分析が示されています。
あわせて注目されているのが「メタスキル」です。論理的思考力、批判的思考力、コミュニケーション能力など、特定の仕事に限らず使える力のことで、メタスキルが高い人ほど賃金が高い傾向にあるとされています。AIが作業を肩代わりするほど、問いを立て、結果を吟味し、人と調整する力の価値が上がるということでしょう。
一方、働く人がリ・スキリングを行わない理由で最も多かったのは『仕事が忙しく時間が取れない』で、3割を超えました。次いで『家事や育児等で勉強時間がない』が続きます。学び直しは本人の意欲だけでなく、会社が時間をつくれるかどうかに左右されます。
会社が、いまからできること
・業務でAIを使ってよい範囲と、入力してはいけない情報(個人情報・顧客情報など)のルールを決める
・『使いたい人が自己流で使う』状態から、社内で使い方を共有する場(短い勉強会、事例の共有など)をつくる
・事務作業のどこにAIを使えるかを洗い出し、空いた時間をどの仕事に振り向けるかを決める
・学び直しの時間を業務時間内に確保できるか検討する(9月号でご紹介した教育訓練休暇給付金なども選択肢の一つです)
・人材育成の方針を、経営計画とあわせて言葉にしておく
AIの導入は、ツールを入れることより、人と仕事の組み方を見直すことに本当の意味があります。白書のメッセージは、規模の大小を問わず当てはまるものといえます。
毎年の「働く」を記録する、政府の定点観測
ニュースで耳にする「労働経済白書」とは、どのようなものなのでしょうか。
正式名は「労働経済の分析」
労働経済白書は、厚生労働省が毎年公表している「労働経済の分析」の通称です。閣議に報告されたうえで公表され、今回で77回目を数えます。
2部構成で、前年の振り返りと毎年のテーマ
白書はおおむね、前年の雇用・賃金などの動きを振り返る部分と、その年ごとに設定したテーマを掘り下げる分析の部分から成り立っています。今年のテーマが「AI」であったように、そのときどきの労働市場の課題が選ばれます。
忙しい経営者は「概要版」から
本文は分量が多いため、まずは数ページにまとめられた概要版に目を通すのがおすすめです。自社の業界や規模に近いデータを一つ見つけるだけでも、採用や人材育成を考える材料になります。
厚生労働省よりいま見ておきたい人事労務情報
厚生労働省「人事労務マガジン」から、今月押さえておきたい情報をご紹介します。詳しくはリンク先の原文をご確認ください。
「働き方改革推進支援セミナー2026秋」
10月から適用される改正同一労働同一賃金ガイドラインの内容を解説するとともに、「職務分析・職務評価」の手法を使って、採用・定着・人材育成につながる賃金制度づくりに取り組んだ中小企業の事例を紹介するセミナーです。オンライン(10月8日)のほか、広島・大阪でも開催されます。参加は無料です。
「高年齢者活躍企業フォーラム」(10月9日)
高年齢者の知識や経験を生かす雇用管理や職場改善に取り組んだ企業を表彰する「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式と、入賞企業による事例発表などが行われます。会場参加のほかライブ配信もあり、参加は無料(事前申し込み制)です。定年延長やシニア活用を検討している会社には、他社の具体的な取り組みを知る機会になります。
建設業退職金共済制度の退職金額が増加します(建設業の事業主の皆さまへ)
「建設業退職金共済制度」は、建設業で働く従業員のための国の退職金制度で、建設業界で働くことをやめたときに退職金が支払われる「業界の退職金制度」です。建設業を営む事業主であれば、元請・下請、専業・兼業、建設業法の許可の有無などを問わず加入できます。今年10月から予定運用利回りが1.3%から1.5%に引き上げられ、勤続年数にもよりますが退職金額が増加します。詳細は独立行政法人勤労者退職金共済機構にお問い合わせください。
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