試用期間と有期雇用契約の違いを徹底解説|採用時の注意点とリスク管理
2025/05/27
採用活動の現場では、「試用期間」と「有期雇用契約」が混同されがちです。しかし、この二つは法的にも実務上も大きく異なる仕組みです。誤った運用は、労使トラブルや採用リスクに直結します。本記事では、それぞれの違いと注意点、2024年4月の最新実務情報もふまえて、安心して採用活動を進めるためのポイントを解説します。
試用期間とは何か?
試用期間とは、労働者の適性や能力を見極めるために設けられる一定期間のことです。多くの企業で「本採用を前提」として導入されており、法律上は正社員(無期雇用)として雇用契約が成立している状態です。
このため、試用期間中であっても労働基準法等の権利が保障され、簡単に解雇できるものではありません。
試用期間中の解雇も、通常の解雇と同様に客観的かつ合理的な理由が必要であり、30日前の予告もしくは予告手当の支払い義務が生じます。特に、試用期間満了間近の解雇(本採用拒否)は厳しく判断されやすいため、慎重な運用が必要です。
有期雇用契約とは何か?
有期雇用契約は、契約社員やパートタイマーなど、契約期間があらかじめ定められた雇用形態です。契約期間満了によって自然に雇用が終了しますが、更新を繰り返すことで実質的に無期雇用とみなされる場合もあります。
契約期間中の解雇や契約解除は原則としてできず、やむを得ない事由が必要です。契約を更新する際は、開始日・終了日、更新の有無や判断基準、更新回数上限などを明示することが法律で求められています。
試用期間と有期雇用契約の主な違い
項目 | 試用期間(正社員) | 有期雇用契約 |
---|---|---|
雇用形態 | 正社員(無期雇用) | 契約社員・パート等(有期雇用) |
終了時の取扱 | 解雇(正当な理由が必要) | 契約期間満了による自然終了 |
解雇予告義務 | あり(30日前予告または解雇予告手当の支払) | 期間満了時は原則なし※期間中の中途解約(解雇)は「やむを得ない事由」が必要 |
よくあるトラブル事例|「正社員募集なのに有期雇用契約だった」
実際の採用現場でしばしば発生しているのが、「求人票や面接では“正社員”と案内されていたのに、いざ雇用契約書を確認したら“有期雇用契約”だった」という、労働者側からのトラブルです。
応募者は「正社員(無期雇用)募集」と明記された求人票を見て応募し、面接を経て内定を受け、入社します。しかし、入社時に渡された雇用契約書をよく見ると「契約期間の定めあり」と記載されており、実は有期雇用契約となっていた――こうしたケースは決して珍しくありません。
応募者としては正社員として長く安定して働けることを期待していたのに、実際には契約期間満了で雇用が終了する可能性があるため、「約束と違う」と強い不満を感じます。このような認識のズレが原因となり、労働基準監督署への相談や、場合によっては弁護士を通じた法的訴訟という労使トラブルへと発展することもあります。
企業としては、「試用期間」と「有期雇用契約」の違いを正しく理解し、求人情報や雇用契約書、労働条件等の内容を一貫させることが不可欠です。もし誤った運用や曖昧な説明による認識不足があれば、単なる労使間のトラブルにとどまらず、「採用活動に不誠実な会社」という悪評や、インターネット上での風評被害につながる恐れも否めません。
採用時には雇用形態や契約条件を明確に伝え、入社時にも必ず書面で条件を確認し、同意を得るプロセスを徹底しましょう。こうした基本的な注意を怠らないことが、企業の信頼性や人材確保につながります。
有期雇用契約の更新・雇止め・無期転換ルールの注意点
有期雇用契約を繰り返し更新していると、労働者の側では「このまま継続的に働き続けられるだろう」と期待を持つようになるケースが少なくありません。そのため、会社が急に雇用契約の更新を打ち切る(いわゆる「雇止め」)場合、「なぜ更新されないのか」「納得できない」といったトラブルが起きやすくなります。
特に、契約書や就業規則に「契約の更新は会社が判断する」といった曖昧な表現しか記載されていないと、労使間の誤解や不信感を招きやすく、後々「本当はずっと働けると思っていた」「理由もなく雇止めされた」といった主張が生じるリスクが高まります。
そのため、有期雇用契約の更新に関するルール(契約期間・更新回数の上限・更新の有無や判断基準)を、労働条件通知書や就業規則にできるだけ具体的に記載し、採用時や更新時に労働者へしっかり説明することが重要です。
また、2013年から導入された「無期転換ルール」にも注意が必要です。有期雇用契約で同じ会社に通算5年以上雇用されている労働者は、本人の申し出によって“無期雇用”へ転換する権利(無期転換申込権)が発生します。たとえば、1年ごとの契約を5回以上更新した場合などが典型です。
このルールを知らずに契約更新を続けてしまうと、会社の意図しないタイミングで無期雇用化が発生するケースも少なくありません。無期転換後は、契約期間の定めがなくなり、解雇や雇止めがより厳格に制限されるなど、雇用管理上のルールも変わります。
たとえば、契約を繰り返しているパートタイマーや契約社員が、会社の説明不足によって「ずっと働けるもの」と誤解し、雇止め時にトラブルになった実例も多く報告されています。万が一のトラブルを防ぐためにも、採用時や契約更新時には「無期転換ルール」の有無・内容についても丁寧に説明し、労使双方が合意したうえで契約を締結することが大切です。
また、2024年4月から労働条件通知書の様式が改正され、有期雇用契約の場合は「契約更新の有無」「更新回数・通算期間の上限」「無期転換の申込権」などの記載・説明が必須となりましたので、必ず最新の法令・書式を確認しましょう。
採用時の注意点とリスク管理
- 雇用形態を明確に伝える
求人票や雇用契約書には、必ず「正社員」「契約社員」などの雇用形態を正確に明記し、応募者との間で誤解や期待のズレが生じないようにしましょう。口頭での説明と書面の内容に食い違いがないように、必ず複数の場面で確認することが重要です。
- 契約内容と実態の一致を確認する
有期雇用契約で採用した場合でも、実際の待遇や業務内容が正社員とほとんど変わらない場合、後に「実質的な無期雇用」とみなされるリスクがあります。契約書や就業規則の記載内容と、現場での運用実態が一致しているか定期的に見直しましょう。
- 最新の法令や雛形に対応する
2024年4月の労働条件通知書の改正により、記載すべき内容が大幅に増えています。古い雛形のままでは法令違反となるおそれがあるため、必ず最新の書式・内容を確認し、雇用契約書や労働条件通知書を随時アップデートすることが大切です。
- 書類の保管と説明プロセスを徹底する
雇用契約書や通知書は適切に保管し、入社時や契約更新時には必ず内容を説明し、同意を得るプロセスを明確にしておきましょう。
FAQ(よくある質問)
- Q1. 試用期間中の従業員をすぐに解雇することはできますか?
試用期間中でも、雇用契約は成立しており、簡単に解雇できるわけではありません。解雇には客観的かつ合理的な理由が必要で、労働基準法の解雇予告義務も適用されます。試用期間=解雇ができる期間ではありませんので、注意が必要です。
- Q2. 有期雇用契約の契約期間中に会社から一方的に解雇できますか?
有期雇用契約は、原則として契約期間満了まで雇用が続きます。やむを得ない事由がない限り、会社側から一方的に解雇(中途解約)することはできません。やむを得ない事情がある場合も、正当な理由と十分な説明が求められます。
- Q3. 有期雇用契約の契約期間が過ぎてしまった後でも、同じ従業員と更新・再契約して問題ありませんか?
契約期間終了後もそのまま就労が続いている場合、「黙示の更新」(自動更新)とみなされることがあります。これが繰り返されると、無期雇用と判断されるリスクもあるため、契約終了期間をしっかり管理したうえで、更新の際は口頭ではなく、必ず書面で手続きを行いましょう。
- Q4. 有期雇用契約の更新時に、労働条件を引き下げることはできますか?
労働条件の引き下げは、必ず労働者本人の納得と明確な同意が必要です。一方的に引き下げることはできません。賃金や労働時間など重要な条件を不利益に変更する場合は、合理的な理由や十分な説明を行い、必ず書面で合意を取りましょう。
まとめ
試用期間と有期雇用契約は、目的や法的な性質が異なる制度です。制度の違いや最新の法改正をしっかりと理解した上で、採用時や契約更新時に適切な運用を心がけましょう。
雇用契約や書類作成、法令対応についてご不安な場合は、当社までお気軽にご相談ください。
この記事の監修者について
社会保険労務士法人 総合経営サービス肥後労務管理事務所
代表社員 社会保険労務士 白井章稔
東京都武蔵野市吉祥寺・北区王子・松本市に拠点を構える社会保険労務士法人代表。全国対応、オンライン無料相談OK。
これまで全国の中小企業から100人から500人までの中堅・上場企業まで、さまざまな業種・規模の労務管理に携わり、年間1,000件を超える相談・導入サポート実績を持つ。
社労士として20年以上の経験を持ち、働き方改革・労務DX・企業型DC導入など時代に即したコンサルティングにも精通。
メディア執筆や企業向けセミナー講師、各種専門誌の監修なども多数。
【保有資格】社会保険労務士/CFP®/DCプランナー 他
社会保険労務士法人 総合経営サービス 肥後労務管理事務所:https://sokei-sr.jp/
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