人手不足解消と処遇改善の切り札!「年収の壁」対策で最大75万円、「キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)」を社労士が徹底解説
2025/11/08
こんにちは。
社会保険労務士法人総合経営サービス肥後労務管理事務所の白井です。
「パート従業員が『年収の壁』を気にして、年末になると勤務時間を減らしてしまう…」
「人手は欲しいのに、社会保険料の負担を考えると、なかなか労働時間の延長を推奨できない」
こうした「年収の壁」問題は、多くの事業主様にとって深刻な人手不足の原因の一つとなっています。労働者にとっても、働きたいのに働けないというジレンマを生んでいました。
この問題を解消するため、厚生労働省は「年収の壁・支援強化パッケージ」の一環として、キャリアアップ助成金を拡充しました。2024年(令和6年)10月から、新たに「短時間労働者労働時間延長支援コース」が創設され、これが非常に強力な支援策となっています。
今回は、社労士の視点から、この新しい助成金を活用して「人手不足の解消」と「従業員の処遇改善」を両立させる方法について詳しく解説します。
「短時間労働者労働時間延長支援コース」とは?
このコースの目的は、非常に明確です。パート・アルバイトなどの短時間労働者が「年収の壁」を意識せずに働ける環境を整備すること。そして、社会保険に加入することで、将来の年金受給額が増えるなど、労働者の処遇改善につなげることです。
事業主にとっては、労働時間の延長による人手不足の解消が大きなメリットとなります。
具体的には、有期雇用労働者などを新たに社会保険に加入させ、同時に週所定労働時間の延長と賃金の増額を行った事業主に対して、助成金が支給されます。
1人あたり最大75万円!具体的な助成内容
このコースの最大の魅力は、手厚い助成額です。労働者1人につき、最大で75万円(小規模企業の場合)が助成されます。助成は2段階に分かれています。
1年目の取組:社会保険加入時の処遇改善
社会保険に加入させる際に、以下のいずれかの取り組みを行うことで、1人当たり下表の額が助成されます。
| 1年目の取組内容(週所定労働時間の延長+賃金増額) | 小規模企業(※) | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|---|
| 5時間以上の延長 | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
| 4時間以上5時間未満の延長 + 賃金5%以上増額 | |||
| 3時間以上4時間未満の延長 + 賃金10%以上増額 | |||
| 2時間以上3時間未満の延長 + 賃金15%以上増額 |
※小規模企業とは、常時雇用する労働者の数が30人以下である事業主を指します。
注目すべきは、「複数年かけて週所定労働時間の延長等に取り組み、社会保険に加入する場合も対象」となる点です。段階的な労働時間の延長にも対応できる、使いやすい制度設計になっています。
2年目の取組:さらなる処遇改善(追加助成)
1年目の取り組み後、さらに以下のいずれかの措置を講じると、追加で助成が受けられます。
●週所定労働時間をさらに2時間以上延長
●基本給をさらに5%以上増額
●昇給、賞与、退職金制度のいずれかの制度を新たに適用
<2年目の助成額>
1.小規模企業:25万円
2.中小企業:20万円
3.大企業:15万円
つまり、小規模企業の場合、1年目の50万円と2年目の25万円を合わせて、合計75万円の受給が可能になるのです。
対象となる労働者と事業主の要件
助成金を受給するには、対象となる労働者と事業主の双方に要件があります。特に以下の点に注意が必要です。
対象労働者の主な要件
実務上、特に確認が必要なのは以下の3点です。
●社会保険の加入日の6か月前の日以前から継続して雇用されていること。
●社会保険の加入要件を満たさない条件で就業していたこと。
●社会保険の加入日から起算して過去2年以内に、同じ事業所で社会保険に加入していなかったこと。
(※その他、事業主の親族でないこと など、細かな要件があります。)
対象事業主の主な要件
●助成金を受けるための「キャリアアップ計画書」を事前に提出していること。
●対象労働者を社会保険・雇用保険に適切に加入させていること。
●労働時間の延長や社会保険加入状況を明記した雇用契約書(労働条件通知書)を作成・交付していること。
●労働関係法令を遵守していること。(不支給要件あり)
申請の「キモ」は事前準備!基本的な流れ
キャリアアップ助成金全般に言えることですが、「取り組みを始める前の計画書提出」が最も重要です。手順を間違えると、せっかく取り組みを行っても助成金が受給できません。
基本的な流れは以下の通りです。
1.キャリアアップ計画書の作成・提出
●提出期限:社会保険の加入日(取り組み開始日)の前日まで。これが一番のポイントです!
●提出先:管轄の都道府県労働局。
2.取り組みの実施
●労働者と合意の上、労働時間延長、賃金増額を実施し、社会保険に加入させます。
●6か月間の継続雇用と賃金支払
●取り組み(社会保険加入状態)を6か月間継続します。
3.支給申請(1回目)
●申請期限:上記6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内。この期限も厳守です。
●2年目の取り組み実施・支給申請(該当する場合)
●2年目の取り組み(労働時間延長や賃上げ等)を実施し、同様に6か月継続した後、2か月以内に支給申請を行います。
現行コース(社会保険適用時処遇改善コース)からの切替も可能
「すでに『社会保険適用時処遇改善コース』の計画書を提出して、取り組みを進めている」という事業主様もいらっしゃるかと思います。
朗報です。その場合でも、今回の新しい「短時間労働者労働時間延長支援コース」の要件を満たしていれば、切り替えて申請することが可能です。
まとめ:専門家を活用し、人手不足と処遇改善を両立させましょう
「年収の壁」対策として新設された「短時間労働者労働時間延長支援コース」は、労働者の手取り減少を緩和し、企業の社会保険料負担も軽減する、非常に強力な助成金です。
労働者にとっては社会保険加入による将来の安心が得られ、事業主にとっては人材の定着と人手不足の解消につながります。
ただし、ご覧いただいた通り、「計画書の事前提出」や「6か月継続後の2か月以内の申請」 など、厳格な期限管理と多くの申請書類(雇用契約書、賃金台帳、出勤簿など)の整備が必要です。
「自社で対応できるか不安だ」「手続きを間違えて受給し損ねたくない」とお考えの事業主様は、ぜひ私たち社会保険労務士にご相談ください。制度の複雑な部分を整理し、計画書の作成から支給申請まで、スムーズな受給をサポートいたします。
執筆者:社会保険労務士法人総合経営サービス肥後労務管理事務所
社会保険労務士 代表社員 白井 章稔
社会保険労務士法人 総合経営サービス 肥後労務管理事務所:https://sokei-sr.jp/
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