2025年施行の育児・介護休業法の改正ポイントを解説

      2025/03/06

育児・介護休業法(正式名称:育児休業、介護休業等に関する法律)は、仕事と家庭の両立を支援するために制定された法律です。
2024年5月にこの法律が改正され、2025年に2段階で施行されることになりました。

今回の改正では、育児と介護の両面で支援策が拡充され、男女ともに仕事と育児・介護を両立しやすい柔軟な働き方を実現することが目的とされています。

以下では、2025年4月1日施行の改正内容と、2025年10月1日施行の改正内容について、それぞれ解説します。


2025年4月1日施行の改正内容

2025年4月からは、主に育児期の初期(子が3歳未満~就学前)介護離職防止に関する改正が施行されます。
具体的な改正ポイントは以下のとおりです。

1. 子の看護休暇の対象拡大

これまで「子の看護休暇」は、小学校就学前の子を対象としていましたが、改正により小学校3年生まで拡大されます。また、勤続6か月未満の従業員を除外できる規定も廃止され、新入社員など勤続期間が短い方でも取得できるようになるのが大きな変更点です。これにより、学校行事への参加など看護以外の理由でも、休暇を取得しやすくなります。

施行前 施行後
小学校就学の始期に達するまでの子
(勤続6か月未満は除外可)
小学校3年生修了まで拡大
勤続期間に関わらず取得可

2. 残業免除(所定外労働の制限)の対象拡大

残業免除(所定外労働の制限)は、現在は3歳未満の子を育てる労働者のみが請求できますが、改正後は「小学校就学前の子」まで範囲が広がります。
幼稚園や保育園に通う子どもの育児期間(約3歳~6歳)でも、所定外労働の免除を請求できるため、育児中の従業員が長時間労働を避けやすくなります。

施行前 施行後
3歳未満の子
を養育する労働者
小学校就学前の子
を養育する労働者まで対象拡大

3. 短時間勤務制度の代替措置へのテレワーク追加

3歳未満の子を養育する労働者から申出があった場合、企業は短時間勤務制度(例:1日6時間など)の提供義務があります。ただし、フレックスタイム制などの代替措置を講じれば短時間勤務制度の代わりとすることが可能です。今回の改正で、テレワークが新たに「代替措置」の選択肢として明示され、在宅勤務による育児支援が制度上も正式に認められます。

施行前 施行後
〈代替措置〉
①育児休業に関する制度に準ずる措置
②始業時刻の変更等
〈代替措置〉
①育児休業に関する制度に準ずる措置
②始業時刻の変更等
③テレワーク

4. 育児・介護のためのテレワーク導入(努力義務)

短時間勤務制度の代替措置とは別に、事業主が育児や介護との両立を支援するためにテレワークを選択できるように措置を講じることが努力義務として新設されました。法的強制ではないものの、各企業が在宅勤務や柔軟な勤務形態を整備することで、育児・介護と仕事を両立しやすい環境を作る狙いがあります。

施行前 施行後
企業の努力義務なし(明確な規定なし) テレワーク等の導入
企業に「努力義務」として求める

5. 育児休業取得状況の公表義務の適用拡大

育児休業の取得状況(男女別の取得率等)を毎年公表する義務の対象企業が、常時雇用1,001人以上から301人以上へと拡大されます。これにより中堅企業も育児休業の取得率を「見える化」する必要があり、男性育休の促進など企業の両立支援への取り組みが、より一層世間から確認しやすくなります。

施行前 施行後
公表義務:
従業員数1,001人以上
公表義務:
従業員数301人以上

6. 介護離職防止のための個別周知・意向確認の義務化

家族の介護が必要になった従業員に対して、事業主は介護休暇や介護短時間勤務などの制度を個別に周知し、利用意向を確認することが義務化されます。従業員が制度を知らずに離職せざるを得なくなる事態を防ぐ狙いがあります。

施行前 施行後
個別周知・意向確認は
努力義務の範囲
個別周知・意向確認
法的義務化

7. 仕事と介護の両立支援に関する早期情報提供

従業員が介護に直面する前の段階(たとえば40歳前後)から、介護休暇制度や各種支援策、相談窓口などの情報を周知することが義務になります。介護と仕事の両立を支援する職場環境の整備(研修や相談体制の整備など)もあわせて求められ、突然の介護発生時に慌てず対応できるようにするのが目的です。

施行前 施行後
事前周知や研修は
努力義務
早期情報提供
職場環境整備が義務

8. 介護休暇の取得要件緩和

介護休暇については、これまで勤続6か月未満の労働者を除外できる規定がありましたが、これが廃止されます。
家族の介護が必要になるタイミングは突然訪れる場合が多いため、新入社員でも介護休暇を利用しやすくすることで、「介護離職」の防止が期待されています。

施行前 施行後
勤続6か月未満の
従業員は除外可
除外規定を廃止し、
勤続期間を問わず取得可能

以上が2025年4月施行の主な改正点です。育児中の労働者への支援拡充と、介護離職を防ぐための企業の対応強化が図られることになります。


2025年10月1日施行の改正内容

2025年10月からは、主に育児関係の制度拡充が中心です。子どもが3歳以上になった後の柔軟な働き方の支援策や、個別意向聴取義務が導入されます。

1. 柔軟な働き方を実現するための措置の導入(義務化)

3歳以上~小学校就学前の子を育てる労働者に対し、①始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ、②テレワーク等(月10日以上)、③保育施設の設置運営、④短時間勤務制度、⑤子の看護目的の特別休暇(年間上限10日)の中から少なくとも2つ以上を導入し、利用できるようにすることが義務化されます。
保育園卒業後~小学校入学以降の子育て期間でも、仕事と育児を両立しやすくするための柔軟な勤務形態を保障するのが狙いです。

施行前 施行後
企業が独自に
導入可(義務なし)
3歳以上~小学校就学前の子に
柔軟な働き方措置を企業に義務付け(2つ以上)
① 始業時刻等の変更
② テレワーク等(10日以上/月)
③ 保育施設の設置運営等
④ 就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇
(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)
⑤ 短時間勤務制度 

2. 柔軟な働き方措置に関する個別の周知・意向確認

上記の「柔軟な働き方措置」を導入しただけではなく、対象従業員一人ひとりに対して制度の内容を周知し、利用を希望するかどうか意向を確認することも義務化されます。
制度を整備しても、従業員が知らなかったり遠慮したりして活用されない事態を防ぐための規定です。

施行前 施行後
なし 個別周知・意向確認
法的義務

3. 妊娠・出産時および子が3歳になる前の個別意向聴取と配慮義務

妊娠・出産を会社に申し出た従業員や、子が3歳になる前の従業員に対して、事業主が個別に希望する働き方をヒアリングし、その意向を可能な限り配慮することが義務化されます。
たとえば、在宅勤務を希望する従業員に配置転換を検討するなど、ライフステージの変化に対応した柔軟な就業調整が求められるようになります。

施行前 施行後
明確な義務規定なし 個別意向の聴取・配慮
企業に義務付け

以上のように、2025年10月施行分では、主に育児期後半(3歳以上の子を養育する従業員)の柔軟な働き方を支援する制度が大幅に充実されます。これにより、子どもの成長に合わせた働き方を選択しやすくなり、育児を理由とした離職防止が一層進むことが期待されています。


改正の背景

今回の育児・介護休業法の改正背景には、男女ともに仕事と家庭を両立できる社会の実現という政策目標があります。
直近の統計では女性の育児休業取得率は80%を超えている一方、男性は30%程度にとどまっており、依然として大きな差があります。
政府は男性の育児参加を促進するため、企業に育休取得状況の公表を義務付けたり、柔軟な働き方制度の整備を求めたりすることで、職場風土を変革しようとしています。

また、少子高齢化が進む中、仕事と介護の両立も大きな課題です。家族の介護を理由に離職する「介護離職」を防ぐため、従業員への個別支援や早期情報提供を義務付けることで、介護と仕事を両立しやすい職場づくりを促進しています。
こうした改正は、誰もが働きやすく長く活躍できる社会を目指すうえで重要な施策の1つと言えます。


改正の影響

企業への影響
今回の改正により、企業は就業規則や社内制度の見直しが必要になります。特に2025年10月施行の「3歳以上の子を持つ従業員の柔軟な働き方義務化」は、新たに制度を整備する必要があるため、早めの準備が求められます。
また、公表義務の拡大で中堅規模の企業でも育休取得率を公開する必要があるほか、従業員への個別周知・ヒアリングの対応が増えます。法違反時の是正勧告や企業名公表を避けるためにも、確実な履行が重要です。

労働者への影響
育児・介護と仕事を両立しやすい環境が整い、制度が利用しやすくなるメリットがあります。
- 育児:子どもの看護休暇対象の拡大、残業免除対象の拡大、柔軟な働き方措置(時短・テレワークなど)により、より長い期間にわたって育児と仕事を両立しやすくなります。
- 介護:個別周知や意向確認、早期情報提供などが義務化されることで、介護が必要になった段階で会社の制度を活用しやすくなり、離職を避けられる可能性が高まります。

総じて、2025年施行の改正育児・介護休業法は、企業・労働者の双方に新たな対応を求めるものの、長期的には職場定着率の向上や人材流出防止といったプラスの効果が見込まれます。企業は早めの制度整備と周知を進め、労働者は新しい制度を積極的に活用することで、仕事と家庭の両立を実現していくことが重要です。

まとめ

2025年施行の改正育児・介護休業法では、企業に求められる取り組みがこれまで以上に具体的かつ広範囲に及びます。確かに、就業規則や育児・介護休業規程などの社内ルールを改訂することは必要ですが、それだけでは十分ではありません。
従業員が制度を実際に使いやすい環境を整え、職場での相談体制を充実させるなど、企業内部での取り組みが大切です。早期の周知や研修の実施、柔軟な働き方やテレワーク導入の検討など、労使が一丸となって準備を進めることで、育児・介護と仕事の両立がしやすい職場づくりにつながります。

「具体的にどのような対応をすればよいか分からない」「社内制度の整備に不安がある」という場合は、お気軽に総合経営サービスまでご相談ください。



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