キャリアアップ助成金のよくある質問&失敗事例~申請成功のポイントとは~
2025/04/19
人材確保が難しい昨今、有期雇用の従業員を正社員へ転換し、長期的に戦力化したいと考える企業が増えています。その際、「キャリアアップ助成金」を活用することで、人件費の負担を軽減しながら処遇改善を図ることが可能です。
しかし、助成金は国の制度ゆえに複雑な要件や申請プロセスがあり、事前準備を怠ると不支給になるリスクが高いという面も否定できません。実際に「転換前に計画書を出しておらず、後から助成金対象外とわかった」「6か月経っていないのに転換してしまった」などの失敗事例も多く見受けられます。
そこで本記事では、キャリアアップ助成金についてよくある質問(Q1〜Q5)と失敗事例を具体的に取り上げ、失敗を避けるためのポイントを整理してみたいと思います。特に、「転換は半年後じゃなきゃダメなの?」「試用期間と有期雇用期間の違いは?」など、現場でよく直面する疑問に焦点を当てます。
1. キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金は、厚生労働省が推進する「有期雇用労働者の処遇改善」を目的とした助成制度です。有期契約社員やパート・アルバイト、短時間労働者などを正社員(無期雇用)へ転換し、安定的な雇用を確保するといったキャリアアップを行う企業を支援する仕組みとなっています。
主要なコースとしては、
- 正社員化コース(有期契約を正社員・無期に転換した場合)
- 賃金規程改定コース(賃金テーブルを変更して一定の昇給率を満たした場合)
などがあり、それぞれ受給条件や支給金額が異なります。
申請の際には、「キャリアアップ計画書」を事前に労働局へ提出し、受理されていることが原則です。転換後に「助成金があるらしい」と気づいても、計画書を出していなかった場合は支給対象外となりやすいので、早めの確認が大切です。
2. よくある質問Q&A
Q1. 転換は半年後にしなければいけませんか?
A. 「6か月経過後の転換」で助成金対象となるケースが多いですが、6か月経過後であれば転換の時期は問いません。ただし、有効期間が5年以上の場合は「無期→正規の取扱いとなり受給額が半額になる」ルールもあるため、転換タイミングを計画的に考えないと、想定より助成金が少なくなる場合があります。
Q2. 申請はいつまで在籍が必要ですか?
A. 原則は「支給申請日において、正社員化後も在籍していること」が求められます。ただし、本人都合退職(自己都合)であれば「正社員転換後6か月在籍していれば申請日までの在籍は必須ではない」ケースもあります。要件が細かいため、転換後の離職リスクを最小限にする工夫が重要です。
Q3. 有期の社員を正社員に転換しました。助成金の申請はできますか?(初めて取り組む場合)
A. 正社員転換前に「キャリアアップ計画書」の提出がない場合、申請対象外となってしまいます。初めて転換するときこそ、必ず事前に計画書を提出しておきましょう。
Q4. 正社員で採用し、6か月の試用期間終了後に本採用となった場合は対象?
A. もともと正社員として採用している形なので、「有期から無期へ転換」という要件に合致せず、助成金対象外となります。正社員で採用した際の「試用期間」は本採用前に適性や能力を見極めるための期間であり、キャリアアップ助成金の正社員化コースには該当しません。
Q5. 「有期雇用期間」と「試用期間」の違いがよくわかりません。
A. 有期雇用は、期間限定の契約(例:郵便局の年賀状アルバイト)、試用期間は本採用前の適性・能力を見極める「お試し期間」という意味合いが強いです。最初から「正社員」として採用している場合は、たとえ試用期間があっても有期契約には当たらないため、助成金対象外です。
3. 失敗事例から学ぶ
ここでは、キャリアアップ助成金で起こりがちな代表的な失敗事例を3つ紹介します
事例1:パート(時給)から正社員(月給)に転換したら、既存社員の月給を超過
時給ベースで3%アップを設定した結果、社内の既存正社員の月給よりも高くなり、申請を断念されたケースがあります。
ポイント: 時給が高い従業員の転換を検討する場合は、既存社員との賃金バランスや就業規則の整合性を確認しましょう。
事例2:就業規則・賃金規程の運用変更が追いつかず、指摘を受けた
就業時間、休日、賃金、手当、昇給・賞与の時期・支給要件などを見直す際、就業規則の改定をせずに支給申請を行った結果、行政から不備を指摘された事例です。
ポイント:従業員の賃金や就業期間を変更する場合は、就業規則の改訂と届出(労働者が10名以上の場合)を忘れずに行いましょう
事例3:
月の途中で入社した従業員を、6か月経過月の「初日」に転換してしまい不支給
実際には入社から5か月半しか経過していなかったため、6か月以上という要件を満たさず不支給になったケースです。
ポイント:「6か月」を厳密に計算し、1日でも足りなければ対象外になることを認識しましょう。
4. 失敗しないためのポイント
(1) 転換前のキャリアアップ計画書提出が必須
キャリアアップ助成金でよくあるミスが、転換後に計画書を出そうとするパターンです。計画書は転換実施前に提出する必要があるため、常に「先に書類を準備する」意識を持ちましょう。
(2) 就業規則や賃金規程の整備
助成金の要件である待遇改善や一定以上の昇給率を満たすには、就業規則や賃金規程を明確に定めることが不可欠です。賃金テーブルの変更は既存社員との調整も含め、丁寧に進めてください。
(3) 試用期間と有期雇用期間の区別
最初から「正社員採用」であればキャリアアップ助成金の対象外です。試用期間はあくまで正社員の雇用契約を前提とした仕組みであるため、有期契約社員として採用していないと転換扱いになりません。
(4) 在籍期間の正確なカウント
入社日が月途中だと、6か月が何日なのかを厳密に数えておかないと、事例3のように不支給になるケースがあります。また、離職が早期に発生すると支給が難しくなるため、社内フォローを徹底しましょう。
(5) 従業員のモチベーションと専門家への相談
せっかく転換してもすぐに辞められてしまうと助成金はもらえません。本人へのメリットをしっかり説明し、モチベーションを保つ工夫が必要です。また、制度改正が頻繁に行われるため、社労士など専門家へ相談して最新の情報をチェックすると安心です。
5. まとめ
キャリアアップ助成金は、有期契約社員を正社員として登用し、賃金アップやスキル向上を図る企業にとって大きなメリットをもたらします。ただし、事前計画書の提出を忘れたり、転換時期の算出を誤ったり、就業規則の整備を怠ったりといった理由で不支給になるケースも少なくありません。
「転換は6か月経過後でOKなのか?」「在籍期間はどこまで必要なのか?」「有期雇用と試用期間の違いとは?」といった疑問を正確に理解し、さらに昇給率や既存社員との賃金テーブル調整など運用面にも気を配ることが助成金受給へのカギになります。
企業がキャリアアップ助成金をうまく活用すれば、人材育成・定着率アップ・雇用安定の3拍子を同時に狙えます。
今こそ、自社の雇用形態を見直し、将来を担う人材を正社員として着実に育ててみてはいかがでしょうか。
当社、社会保険労務士法人総合経営サービスでは、助成金申請のご相談も対応しております。
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